短編ホラー小説 クロム⚪︎ーツ

アクセサリーに巣食う謎の女

物は魂を持つとされています。特に心をこめて選んだプレゼントには、送り主の心そのものが宿るとも考えてもいいでしょう。

しかし、時には好きな人のために身を削ってお金を稼いでプレゼントを贈る人もいます。

そして、大変な思いをして贈ったプレゼントが別の人の手に渡ってしまったら?

「物」に宿った念は怒りに震え、どんな手を使っても元の持ち主の元へ戻ろうとします。

高価なアクセサリー

これは実際に私が体験した話です。

今から15年くらい前、当時の私はキャバクラで働いていました。店の客層が私と合っていて、それなりに楽しく働いていました。

そして、その中でも私を気に入ってくれて贔屓にして下さっていたお客様がいました。彼は元々ホストクラブで働いていたらしく、お話が上手で、一緒に飲んでいる時はどちらががキャストなのか分からないくらい楽しい時間を一緒に過ごしました。

ある日、彼の首には上質なブラックシルバーのネックレスが光っていました。 夜職の方が好んで付けるあのブランド。きっと30万円以上はするのではないのでしょうか。

私はそのネックレスがなぜか無性に欲しくなりました。そして彼に「ちょうだい」とねだりました。 すると彼は「いいよ」とあっさりネックレスを自分の首から外し、私の首に掛けてくれました。

ネックレスはゴツくてズッシリと重く、小柄な私には不釣り合いでしたが、私は高価なアクセサリーにうっとりするのでした。

「後で売っちゃおうかな」とも考えていました。

体調不良

しかし、営業終了後の送りの車で私の体に異変が起こります。首と肩が異常に凝るんです。元々肩こりもちだったので、明日マッサージにいかなければなあ…と考えていました。

しかし家に着く頃には、肩首の痛みに加え、頭痛に酷い吐き気まで込み上げてきました。 トイレに駆け込んで吐こうとしても何にも出てこない。 吐き気があるのに嘔吐できない不快感、そして肩首の痛みと激しい頭痛。私はベットに倒れ込み、目を瞑りました。

謎の女

すると目を瞑って何も見えないはずの私の目の前に、女の人の姿が浮かび上がりました。確かに私は目をしっかりと瞑っているのです。しかし、見えるんです。

脳に直接映像を写しているような不思議な感覚。しかしこれは夢ではないことは確かでした。 私の意識はとてもはっきりとしていたからです。

私の脳裏に現れたその女の人は色白でボブカットの黒髪。すごく痩せています。そして、とても悲しそうな目をして私のことをジッと見つめていました。

私はこの女の人は彼からもらったアクセサリーと関係がある人だと直感しました。そして「安易に欲しがってごめんなさい」とひたすら謝り続けました。

どれくらい時間が経ったかはわかりません。脳裏の女性はもう消えて見えなくなっていました。ですが肩や首はまだ痛く、吐き気も消えません。私はベットから起き上がり、ネックレスを外そうとしました。

しかし、どうやってもネックレスが外れないのです。

最終的にペンチで鎖を切ってしまいました。ネックレスが床にドシッと音をたてて落ちた時、私はその場で嘔吐しました。

彼の告白

そして、後日、彼を呼び出し事情を説明しました。 彼は私の話を聞いて「怖い思いをさせてごめんね」と謝りました。

話を聞くと、なんとそのネックレスは彼がホスト時代にお客さんだった風俗嬢からプレゼントされたものだったのです。彼曰く、その彼女には随分と無理をさせてしまったようでした。

そして彼女は急に彼と連絡を断ち、行方不明になってしまったとのことでした。

彼女は大好きな彼のために身を削る思いをしてお金を稼いでいたでしょう。彼が自分がプレゼントしたネックレスを簡単に私に渡してしまったことをとても悲しく思ったに違いがありません。

私は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ネックレスを彼に返却しました。

そして私の脳裏に出てきた女性が色白で痩せ型、黒髪ボブカットだったことを伝えると、彼は表情を変えました。

ネックレスをくれた彼女は色白ではなかったし、痩せてもいなかった。髪も長かったとのこと。

それでは、私の脳裏に出てきた女の人は誰だったのでしょうか。

それから1ヶ月の間、私は原因不明の体調不良で仕事を丸々休むことになってしまいました。

疑惑

そして、私にはどうも引っかかることがあります。

それは私の体験を彼に話した時、彼が驚いた様子を全く見せなかったのです。

これは私の憶測ですが、恐らく彼はあのネックレスに何者かがついているのを知っていたのでしょう。そして手放したかったのではないでしょうか。

私のところに来た彼女が何者だったのかはわかりませんが、彼女はネックレスと共にずっと彼に添い遂げるのでしょう。

この体験は私にとってお客様にのものを安易にねだってはいけないという教訓になりました。

今でもそのアクセサリーブランドを見るたびにあの事を思い出します。

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