2022年7月8日、安倍晋三元内閣総理大臣が銃撃されるという衝撃的な事件が起こった。
犯人である男は世界平和統一家庭連合という宗教団体に深い恨みを抱いていた。
この教団は以前は「世界基督教統一神霊協会」という名前で「統一教会」と呼ばれていた。
合同結婚式が有名である。
実は私はこの団体の洗脳プログラムを受けていた事がある。
この事は私にとっては黒歴史。
ずっと封印していた過去だった。だが、連日の報道やネットを見てすっかりと思い出してしまった。
なので今、ここに記す事にする。
私は幼い頃から宗教が起こす悲惨な事件をニュースで沢山見てきた。なので宗教は危ない。ハマる事は恥ずかしい事だと思っていた。
しかし、あなたの周りに私と同じような過去を持つ人がいたら、どうか白い目で見たり、馬鹿にしたりしないでほしい。
勧誘に乗ったその人の背景を考えてほしい。
誰にでも起こり得る事だと私は考える。
きっかけは路上での手相勧誘
今から17年前の2005年、多分11月だったと思う。
私は新宿の路上で真面目そうな女性(ここではAさんとする)から声を掛けられた。
「すみません、私は手相の勉強をしています。よろしければ手を見せて貰えませんか?」
占いが大好きな私は快くそれに応じた。
すると「才能や能力はあるのになかなか周りに恵まれない、繊細で敏感、そして今まさに転換期を迎えている。この機会を逃すと後悔することになる。」
と大体こんな事を言われた。
今思うとありきたりな話だが、世間知らずな上に職場で孤独を感じていた私はその言葉がぶっ刺さってしまった。
仲間が現れて話を盛り上げる
Aさんと盛り上がっているとまた別の女性が現れ、私達に話しかけて来た。彼女はAさんの同僚らしい。
Aさん
「ねえ!この手相凄くない!?見てみて!」
A同僚
「えっ!凄い!本当に転換期だ!!これ滅多に出ないですよ!!!」
とかなり興奮した様子で私の手相を見て話し出した。
A同僚
「実は私たちが通っているフォーラムがあるんだけど、そこに凄い先生がいるんです!その先生に会ってみませんか?」
私は「会いたいです」と言ってしまった。
自分でもびっくりした。
頭の片隅に「危ない」という思いは確かにあったのに。
Aさんと話している間、A同僚はその「先生」とやらに電話で連絡をしていた。
私とAさんとA同僚で電車に乗ってその「フォーラム」へ向かった。
A同僚
「先生にあなたのことを話したら、先生が『もう本当にこの人は人に流されやすい!!これから先どうやって生きていくのかしら!!早くどうにかしないと!』て言ってましたよ!」
今思うと大きなお世話だが、彼女達の話は私の劣等感や焦りや不安を刺激するのだった。
そして私は本当に人に流されやすかった。
ここから私は約2ヶ月に渡り洗脳プログラムを受ける事になる。
「償いをしなさい、人に尽くしなさい」
フォーラムに到着する。ここはビデオセンターと呼ばれているらしいのでビデオセンターとこれから記載する。
まず、所長を名乗る男性が現れた。
悪い人ではないけど、話しの間や雰囲気がなんかイラッとした。
今思うと風俗やキャバで遭遇する陰キャコミュ症のお客さんに覚える感情だった。
所長
「私達は人に思いやりを持たないといけないが、どうしても見返りを求めてしまう」
こんな様な事を言っていた。
先生登場 「家系図を書いて!」
そして、メインである先生が現れた。60代くらいの女性。
何故か家系図を書かされた。霊視をするらしい。家系図と私の手相を見ながら
「あなたの家系は自分達が楽しむ為にお金を使っている、外見だけ求めて中身がない、人に対して愛や思いやりを持たないとダメ」
と言うと、戦争の話をし始めた。
先生
「日本は韓国に対してひどい事をしたので償いをしなければいけない」
反論する私
先生の言う事を聞かないと、転換期とやら無駄にしてしまうらしい。
しかし、話が腑に落ちなかったので自分の思う事を言わせてもらった。
「私の祖父母は一生懸命に働いてきました。それで得たお金を自分達に使うのはダメな事ではありません」
「戦争については、祖母から話を聞いています。みんな辛い思いをしています。それを私達が償うよりも、2度と同じ事を起こさない方が重要では?そしたら、広島長崎の原爆はどうなりますか?キリがないですよ」
と言うと思いやりがないとか、サタンがついてるとか色々言われた。
どうやら私は心が汚れているらしい。
服を買うのは罪な事?
先生
「あなたは、洋服ばかり買って、少しは周りの貧しい人に与えないとダメよ、実は私も以前は外見ばかり求める人間でした。でも、今は人を愛する喜びを知って毎日が楽しくて仕方がない」
ニュアンス的に自分の好きな物を我慢して他人に与えなさいと言っている感じがした。
私
「私の職業はアパレル販売員です。給料は月20万円でカツカツです。ボランティアは自分が余裕がある時に行うもので、決して自分が無理をしてするものではないと思います。自分が必要な物を買ってその上でボランティアをすれば良い。」
と言うと「先生」は不貞腐れていた。
私
「先生はとても綺麗なのだから、好きな服を着て好きな化粧をして良いと思う、今度一緒に服を見に行きませんか?」
とフォローすると先生は顔を赤らめてニコニコ嬉しそうな顔をしたのを覚えてる。
担当者Sさん
「先生」との議論は最終的に私が性格が悪くて、我儘で愛がない人という事で終わってしまった。
次はSさんという30代くらいの女性を紹介された。
この人が私の担当者になるらしい。
聞き上手な優しいお姉さんですっかり私は彼女になついてしまったのだった。
ビデオセンターに通い続けて寝不足
私は仕事が終わった後、22時から終電までほぼ毎日ビデオセンターに通った。時には終点を逃してしまい満喫で寝ることもあった。毎日寝不足だったと思う。
ここでは映画やドキュメンタリーのビデオを観て担当者と感想を言い合う。というものだった。
担当者Sさんも寝不足
Sさんは顔色が悪くていつも目が半開きだった。
私と話をしながら寝てしまうこともあって
Sさんに限らず会員は、みんな顔が青白くて透明感がない。なんか、起きてるけどボーっとしてる感じ。
今思うとあれがマインドコントロールされている人特有の表情だったのだ。
私
「Sさん、大丈夫?目が半分しか開いてないよ」
Sさん
「あ…ごめん…眠くなっちゃって…あ、いや違う…ごめん、えっと…」
と言うやりとりが何回かあった。
Sさんがあまりにも眠そうな時は私は早めに帰っていた。
布教活動やビデオセンターでの労働で寝る暇はほとんどないはずだ。
ビデオセンターで観てきた映画や映像
・タイトル不明
おじさんが演説をひたすらしてる。退屈だったが、最後の「私達は幸せになる為に産まれてきた」という言葉に感動した。おそらく信者の1人。
・水からの伝言
「水の結晶に言葉をかけると結晶の形が変化する」という説に基づき、子供達が結晶に音楽を聴かせたり、感謝の言葉や罵声の言葉を掛けて反応を見るという実験
こんな事ってあるの!と驚いたがバリバリインチキらしい。ふざけんな。
・奇蹟の輝き
ロビンウィリアム主演の映画。良い映画。
・キャプテン
ちばあきおさんの野球漫画。普通に良い話
Sさんは、私に仲間を思いやる気持ちや言葉の大切さを説いた。私も素直に自分の考えを話した。
そして話はだんだん自己犠牲の大切さの話になった。
それに私は抵抗を感じていた。
「塩狩峠」という映画
そんなある日、ビデオセンターで私はある映画を観せられる。
・塩狩峠
三浦綾子さんの小説を1973年に映画化したもの。
信仰心が深い主人公が暴走した電車の車輪に自ら飛び込んで乗客を救うという話。
私には行きすぎた自己犠牲の話に思えた。どうも好きになれなかった。
自己犠牲を美化している様に感じてモヤついた。
別に人が下敷きにならなくてもカバンとかで良かったんじゃない?
で、自分が飛び込んでダメだったらどうするの?そう言うところが自己中なんだよ!
この主人公が信仰心が熱いのは自由だが、どうもそれを周囲にひけらかし、自分まで神様になった様なつもりで周りを見下している様に思えて映画を見ながら終始イライラが止まらなかった。
人間如きが調子に乗るな。
これがこの映画を観た私の感想。
今でも、この映画は大嫌いである。
Sさんに正直に話すと、やっぱり私は心が汚れているらしい。
でも私は自己犠牲なんてしたくないんだよ。
退職を促す、2日間の合宿に誘う
会員側は私が服を買うのを悪とし、自己犠牲の精神を植え付け、職場や家族友達と引き離す事に躍起になっていた様に思う。
この頃から、会社を辞めもっと時間が持てる職場に転職しなと言われるようになった。
そして、2日間の合宿に誘われた。
退職がダメなら合宿だけでも…と2日間の休みを取る様に言われた。
職場のボス的なおばさんにダメ元で2日間お休みをくださいと言ったらそれが通ってしまった。
Sさんは「神様のおかげ!」と喜んでいた。
でも私は会員に黙って家族や友達に会っていたし、「話を聞いてくれる人達がいる」とふんわりと伝えていた。
今思うとこれが本当に良かったと思う。
ビデオセンターに通い続けた訳は承認欲求と罪悪感
これだけ違和感を感じながらもビデオセンターに通っていた理由は
「議論をして、自分の意見を言い肯定される環境」に飢えていたからだと今は思う。
当時職場では自分の気持ちを言葉にできなくて頭が真っ白になってしまい、自分の思った事が言えなかった。
私は正社員だった。パートのおばさん達に毎日の様に「思いやりがない」とか「人の気持ちを考えない」「ボーナスを私達に還元しろ!」と言われていたのでお金や自分の性格に対する罪悪感があった。
(問題アリアリの職場だった。機会があれば元職場のことも書こうと思う)
この背景から会員の発する「思いやり」「自己犠牲」「見返りを求めず尽くす」
と言う言葉に過剰に反応してしまっていたのだと思う。
私は自分に自信がなかったので「嫌な物はいや!なぜならば…」と自分が説明出来ることが嬉しかったし気持ちよかったのだ。
しかし、「私達は意見が合わないですね。さようなら。」と見切りをつける事を私は知らなかった。
あなたは宗教に向いている
悩み続ける私にSさんは
「あなたは真剣に祈ったり、宗教に向いてるよ」
と言った。
私はまた拒否反応を示した。
「宗教は嫌いなの!祈って報われるんだったらみんな祈ってるよ!」と答えた。
が、嫌な物を嫌と言える事が嬉しかった。
職場では全然ダメだけど、ここでは私は話せる。
そして、どんどん私は彼女らに流されていく
あなたは宗教に向いている
ビデオセンターの会員はみんな妙なデザインのネックレスをしていた。
女児のお菓子の付録についている様なデザインのネックレス。
展示会の話をされて私は「買わないよ」と言ったけど次の週には展示会にSさんと一緒に行っていた。
展示会でタンゴを踊りそうなオネエ口調の男が出迎えた。
タンゴ
「oh!lovely cuteな方ね!」
うっせえ黙れ。
無理してでも買った方がいいと思いまス!
様々な宝石を見ていたらブルーの宝石を見つけた。それを付けた時私の顔がパッと明るくなった気がした。
ただパーソナルカラーに合っていただけの話である。
タンゴ
「you!運命の宝石に出会えたネ!こう言う事は滅多に無いから無理してでも買った方がいいと思いまス!」
後はもう、よく覚えてない。私が何か言おう物ならSさんが後ろから何か話をしてきた。
契約してしまった。
そして元銀行員だというSさんからとある銀行の「じぶん計画」というプランを教えられたので申し込んだ。
そして、私はその審査に落ちた
合宿は目前、300万の借金
職場の休憩所で行員から審査に落ちた事を電話で告げられた。
私は実感が湧かなかった。
すぐにビデオセンターに電話して、泣きながらSさんに文句を言ったが
「ごめーん…」と言われただけだった。
でも私はまだフワフワしていた。
同じ経験をしていた学生時代の友人に助けられる
フワフワフワフワ。
ひたすらフワフワしていた。
ビデオセンターでは意にそぐわない事を言われるけど
受け入れなければいけないのかな?
という気持ちにすらなっていた。
そしてある日
急に学生時代に同じバイト先だった友人から「元気にしてる?会わない?」とメールが来る
彼女の家で会話をしていると友人が口を開いた
「私さ、道で手相勧誘してる人達に引っ掛かってさ!あれは統一教会が関わっているんだよね!」
私は全身の力がスルスル抜けた。
「ああ、そうだったんだ…」とその場にへたり込んで全てを洗いざらい友人に話した。
友人と私は似ている所がある。
私の顔色が尋常でないくらい悪くて目も虚なのでもしかしたら…と友人は思ったらしい。
私も会員と同じ表情になっていたのだ。
安心すると同時に怒りと恐怖、そして大嫌いな宗教に関わってしまった自分に対する嫌悪感と悲壮感が襲ってきた。
友人曰く、この時に私の顔色は元に戻っていたらしい。
あなたがダメだったんじゃなくて騙されただけ
情けない!情けない!と騒ぐ私に友人は
「人の心の闇に入るのがうまいんだよ、プロに騙されただけだ。私もそうだった。あんたは悪くない」
と言ってくれた。
もうあなた達とは関わりません
友人からのアドバイスで
私はその場でビデオセンターに電話をした。所長が出た。
私
「もうそちらには通いません。」
所長
「えっ!!あっ、今日ビデオセンターはお休みするということですか?」
私
「違います。もう通いませんので連絡をしてこないで下さい。合宿は行きません。ネックレスはクーリングオフします」
所長は何がモゴモゴ言っていたが電話を切った。
その直後に、新宿で声を掛けてきたAさんから着信が来たが、無視をした。
留守番電話にはAさんの「どうしたの!」と泣き叫ぶ声が入っていた。
クーリングオフ、教会と完全に縁を切る
ネックレスはクーリングオフの範囲内だった。
でも、私は急に怖くなった。
友人は信者が家にまで来たらしい。
なので名称を忘れてしまったが自分で調べて民間の機関に相談をしに行く事にした。完全に縁を切る為に。
担当の女性に全てを話した。
経験豊富で明るい女性だった。ここではBさんとする。
会員とは、顔色や表情が全然違う。
自分の意思をきちんと持っている人の表情。
教会側が私ともう関わらない為に交渉してくる事になった。
今まであった事を時系列で全て原稿用紙に書くように言われた。
12月の後半だった。
職場は冬のセールで忙しい時でまた私は寝不足になった。
外を歩くのは怖かったが幸いな事に何もなかった。
原稿用紙に今までの事を書き殴っていたら年が明けていた。
出来上がった何枚もの原稿用紙を持って行った。Bさんは塩狩峠の話や、Sさんが途中で寝ていた項目を読んでゲラゲラ笑っていた。
「嫌な物を嫌と言えるのはとても素晴らしい事よ。辛かったよね。良く頑張ったよ。でもね、あなたは、あまりにも幼すぎる。自分の意志を持ちなさい。心を開く相手を間違えないで。」
と諭された。
そして私はエステのローンも抱えていて、月3万円の支払いをしていた。
Bさん曰く、聞いた感じ違法性がありそうだからそのローンも止められるかも。という事で消費者センターに行くように言われ、無事に支払いをしなくていい!という事になった。
その後の話。日常は変わらない
友人とBさんには頭が上がらない。
しかし、友人が私と会う度に
「あんたは宗教にハマっていた!私はそれを助けた!」と言い続けるにで、だんだん彼女に苦手意識を持つようになってしまった。
そして家族にはドン引きされた。情けなかった。
宗教がより嫌いになった。
その後も、相変わらず人間関係がしんどかったが仕事を続けた。
毎日は劇的に変わるわけでは無いんだと思った。
自分の過ちに気が付いたからと言って、ドラマのように急に毎日がキラキラするわけでは無いのだ。
この店でパートさん達から私が承認される事はこれからも無いだろう。
でも、私は正社員だし異動もある。もう少しだけ頑張ろうと思った私は21歳を迎えていた。
道で「手相を見せて下さい」と言う人には度々出くわしたが、私は勿論スルーした。
もう関わりたくなかった。
彼らは
「統一教会です。手相の勉強をしているので宜しければ見せて下さい」
と身分を明かすようになっていた。
2chでの告発者が沢山現れていたし、手相勧誘が問題化され始め、個人でホームページを立ち上げ、撲滅活動をする人も現れていた。
そして夏になった。
私は新宿ルミネの入り口のエスカレーターに乗っていた。そして、ふと横を見た。
すぐ横の階段にSさんの顔があった。
青白い顔と半開きの目で手だけ一生懸命にこちらに手を振っていた。
ゾッとした。
彼女は私を覚えていたのだった。
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