銀座の栄子ちゃん

キャバ嬢8ヶ月目の私は背伸びをして銀座のキャバクラで働く事にした。そこで栄子ちゃんと出会った。

小池栄子に似てるから栄子ちゃん。

意気投合した私達は、出勤前にご飯を一緒に食べたり休日には遊んだりと、仲良く過ごしていた。

しかし、キャバクラは先が読めない。

店長が飛んだ。お店の給料が遅れだした。そして、キャスト全員の給料の計算が間違っていたりと何やら不穏な空気が流れ出した。

私はすぐに店を辞め、銀座を出て郊外の緩いキャバで働き出した。

栄子ちゃんも退店して、銀座のクラブで働き出した。

お店が変わっても私達はよく連絡を取り合っていた。

そしてそれからI年後、私はこのまま水商売を続けるか、お昼をしようかと考え出していた。

お昼ガッツリは働きたくないけど、キャバ以外の空気が吸いたかった。

そこで、なんとなくその事を栄子ちゃんに話したら

「じゃあ、Sで一緒に働こうよ!」と誘われた。

Sという会社

Sは化粧品や、美顔器の販売会社である。

銀座に来たばかりの頃、栄子ちゃんに誘われて行った事がある。

ここでは会員の紹介なら、Sで販売している美顔器や化粧品を使ったエステが無料で3回受けられる。

マシンも化粧品も悪く無かった。むしろ良かった。ただ、栄子ちゃんの先輩だというお姉さんが怖かったので、行ってなかった。

あ〜あの怖いお姉さんがいるのか〜。と思ったが、栄子ちゃんと一緒なら…と私は1年ぶりにSの門を叩いた。

私は、働く、というより、まずどんな所なのか空気に触れたかった。

触れた空気が間違っていた。

18号さん再登場

私がちょっと苦手な、怖いお姉さんが再び出てきた。ドラゴンボールZに出てくる人造人間18号に似てるので18号さんとする。

18号:「寧々ちゃんは、マシン(Sで販売してる美顔器)を持っていないから、なかなか辛いと思うよ〜。でも頑張ってついて来てね〜。」

おいおいおいいい!!!まだ働くともマシンを買うとも言ってないだろ!!そういうとこだよ!

18:「なんか欲しい商品ある?」

あんたからは買わないよ!!!買うなら栄子ちゃんから買うよ!!

18号:「あたし、ここにシミがあるんだけどSの化粧水使ってたら薄くなってきたんだよね」

とっととレーザーで消せばいいのに!!

色々思う事はあったが、私は久しぶりの昼間の空気とキャバ以外の人達との交流に新鮮さを感じていた。

Sのセミナーと内容

セミナーは眠かった。午前中からなのでキャバの仕事を終えてからろくに寝ずになのでキツかった。

栄子ちゃんが「眠かったら寝てていいよ」と言うのでお言葉に甘えて寝かしてもらった。

居眠りは昔から得意である。

目を瞑りながらセミナーを聞いていた。うろ覚えなのだが、薬事法に引っかからない説明の仕方がパンフレットに書いてあった。となると、アドバイザーはみんな素人という事になる。

後は会員のスピーチがあった。

大体、「私は頑固でしたが、Sに出会えて素直になれました」と言う内容だった。そこに家族や友人との感動話を出して皆んなでオイオイ泣くのだった。

私は別に泣かなくていいのにな〜と思っていた。

後、アイドルみたいなドレスを着た60代くらいの女性がいた。みんなで可愛い可愛いと持て囃して写真を撮っていた。

栄子:「ねえ、寧々ちゃん!あの人、何歳だと思う?」

:「65歳くらい?」

すると、栄子ちゃんは、「え…」と怪訝そうな顔をした。実際にその女性は60代だったらしい。

私は何で答えればよかったの?

そして、彼女の旦那さんという男性が私と栄子ちゃんに話しかけてきた

「君たちも早く、商品売らないとみんなに遅れちゃうよ?」

こんな事を言っていた。

これを聞いて私と栄子ちゃんは顔を見合わせた。私達はマイペースにやりたい性格である。

マシンを無料で譲り受けた私

マシン(美顔器)あったほうがいいのかなあ、でもまだSに納得していない。それを当時、付き合っていた人に話すと、なんと彼の知り合いがマシンを持っていて、それを譲ってもらえる事になった。

それをSで話すと18号さんは「よかったじゃーん。ラッキーだねえ」と話していたが、栄子ちゃんはなんかムスッとしていた。

この日はセミナーだったが、栄子ちゃんは私をずっと無視した。

ここら辺で私は居心地の悪さを感じるようになる。

栄子ちゃんと気まずくなってしまえば、Sをやる理由はないので、栄子ちゃんにその旨を伝えた。

彼女は、何かホッとした様子だった。

でもいつでもラウンジには遊びにきてね!との事だったのでSのグループラインにも私は残してもらっていた。

18号さんは栄子ちゃんに目標売上を言わせたり、友達をラウンジに連れてくるように厳しく指導していた。

「(ラウンジに連れてくる)友達はいない」と栄子ちゃんが言うと、厳しい言葉で叱りつけたらしい。

現役銀座ホステスでシングルマザーの18号さんは私と栄子ちゃんの水商売の仕事の甘さや時給に関しても指摘してきた。

ご立派だとは思うが、私はゆる〜くやりたかった。

Sの教え

Sの考え方は個人を尊重し、人と競争しない。と聞いていた。しかし実際は、競争を煽ってくるしどうも矛盾している。

それに、雰囲気が統一教会に似ている。あそこをもう少しだけお洒落にした感じだ。

ここで私は思った。Sも18号さんも私には合わないし、栄子ちゃんにも合わないのでは?てかパワハラじゃね?

でも栄子ちゃんはSに居たいようだった。

栄子ちゃんと訣別する出来事

栄子ちゃんはいわゆる、毒親育ちだった。

よく、給料をママがパチンコで使っちゃったと何回も報告してきた。

その日も栄子ちゃんからLINEがきた

栄子:「寧々ちゃん、起きたら給料が無くなってる…」

私は、多分栄子ママの仕業だろうなと思ったら、やはりそうだった。

私は栄子ちゃんとは色々あったけど、彼女が一生懸命働いている事を知っていた。

銀座で毎晩アフターして、自分の席でもお姉さんやママの席でもお酒飲んで頑張っていた。

凄いなって思ってた。私には出来ない。

だから、体が震えるくらい悔しかった。

無責任な感情だけど、それを伝えた。そのまんま。

栄子:「うん、でもパチンコに行っちゃうのも私のお金勝手に使うのもママの可愛い所なんだよね。私はママの事受け入れようと思うよ」

もう、この言葉でこの子と付き合うのはやめようと思った。何を言っても無駄だ、

ママの事を可愛いと思うのなら、何故毎回お金が無くなったと泣きそうな顔をして報告してくるんですか。

でも私にはどうする事も出来ない。

だから、もうサヨナラです。ごめん。

人望の無い18号

いきなりブロックも出来ないから、栄子ちゃんと連絡の数を減らしていく事にした。

次は、Sとどうやってサヨナラしようかなと思っていた矢先、SのグループLINEで18号さんからメッセージがきた。

18号:「こんにちは!先日息子が高校受験に失敗しまして、みんなでお疲れ様会をしたいと思います!!とりあえず息子にはステーキを食べてもらって、1人会費3,000円で◯月◯日、ステーキハウス◯◯で開催します!」

おいおいおい!!公私混同が過ぎるだろ!お前の息子とか興味ねえよ!あと、多感な時期な上に受験落ちてんのによく分からない大人に囲まれて肉食わされる息子の気持ち考えろよ!!!!

このメッセージの後、何人ものメンバーがグループを退会していた。

私も退会した。

その後、栄子ちゃんからの報告を聞くとこうだ。

栄子ちゃんは友人を何人も18号さんに紹介していた。しかし、18号さんの性格のキツさに耐え兼ねて契約をしても途中で辞める人が出てきたそうだ。それを18号さんは、栄子ちゃんのせいにした。

栄子ちゃんは自分の素直な気持ちを18号さんにぶつけた。すると、栄子ちゃんはLINEをブロックされSのグループLINEからも強制退会させられたそうだ。

でも、栄子ちゃんはSが好きだから続けたいそうだ。

最後にこれからも友達でいてね。と私に言った。

しかし、この連絡を最後に私たちは会う事も話をする事もなかった。

2年後の栄子ちゃん

栄子ちゃんは、自分に光を与えてくれたSと18号さんの事が大好きだった。

Sの教えで思いやりを持ち、ママを受け入れる事を覚えた。でもママも、18号さんも、Sも、栄子ちゃんの事を搾取するだけだった。

そして2年後、私は銀座ナインで栄子ちゃんを目撃する。11月のすごく寒い日にコートも着ないでペラペラなワンピース1枚で歩いてた。肌も荒れて髪もボサボサ。凄い怖い顔をしながら早口で誰かに電話をしていた。

目があった。

凄い表情で睨まれた。

栄子ちゃんはプイッとそっぽを向くと凄い速さで出口に向かって行った。

私は何とも言えない気持ちになった。

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