私には会いたくて仕方がない人がいる。専門学生時代の友人だ。卒業して社会人になっても仲良くしていたのに、急に音信不通になってしまった。
前日までLINEでやりとりしていたのに。 理由がわからない。
私は彼女を探しまくった。しかし、FacebookにもInstagram上にもいない。専門学校時代の友人たちも誰1人友人の行方を知る者はいなかった。
そんな中、とある薬が開発された。投薬すれば、夢の中で会いたい人に出会えるという、まさに魔法のような薬だ。 それだけでなく、会いたい対象者も自分と同じ夢を見ているというのだ。つまり、2人の脳内で同じ夢を共有できるのだ。
その薬には応募者が殺到した。2年後、私に投薬の順番が回ってきた。点滴を通じて薬が私の中に入っていく。 だんだん睡魔に襲われ私は眠りに落ちた。
友人が目の前にいた。
あの時と同じ笑顔のままニコニコと笑っている。私たち2人は友人宅でコンビニで買ったお菓子を食べ、動画を見ながらゲラゲラ笑い合った。その動画を私1人で見たなら吹き出すくらいだっただろう。でも友人といたからいつもの何倍も面白かった。
私は目が覚めた。目から涙が流れてる。大笑いしたからなのか、友人との再会の感動からだろうか。身体には体操をした後のような心地よい疲労感を感じていた。
「あなた、少し目が覚めやすいみたいですね。また投薬しますね。はい、チクッとしますよ」 医師の声が遠くなり、視界がぼやける。
友人が鏡の前で化粧をしている。友人は「お金稼ぎたいからショークラブで働くことになったの。だからメイクを見て欲しい」と言い、恥ずかしそうに笑った。エキゾチックな顔立ちの友人に濃いメイクはよく似合っていた。
それから私は目が覚める度に投薬をしてもらった。私の身体が感じる疲労感はどんどん強くなっていた。海やプールでひたすら泳いだ後の感覚に似ている。疲れているけど、心地いいのだ。
夢の中に落ちるたびに友人と共にした。
夢の中で友人が住んでるマンションは古かったが、庭が素晴らしかった。小規模だが、滝が流れていている。滝から落ちる水は綺麗な池に注がれ、池の中には色とりどりの綺麗な魚が泳いでいる。金魚なのか、鯉なのか、わからない。見たことがない魚だ。
私は池の石畳を渡り、しゃがんで水の中に手を入れた。餌をくれると勘違いした魚たちが私の手に寄ってきて、その中でも身体の大きな一匹が私の指をついばんだ。魚の口の中には小さいけど鋭い歯びっしりと生えていた。私は驚きと痛みを感じる前に、目が覚めた。
「先生、また投薬をお願いします」
「あんまり打つと体力を消耗しますよ。少し期間をおいて休まれた方が…」
「そこをなんとか…」
医師を説得して半ば無理やり投薬してもらった。 私はまた夢の中に落ちた。
私は、友人の部屋にいた。
部屋には病院にあるようなベットがあった。そしてベッドの脇には友人と見知らぬ中年男性がぼーっと立っていた。 2人とも無表情で瞬きもせず、そに場に突っ立って何処か1点だけをじっと見つめていた。
ベットには青白い顔をした小学生くらいの女の子が寝ている。女の子は全く動かない。
2人は女の子の近くにいるのに女の子の方など全く見ていない。
突然、友人がぐるっと私の方を振り返って言った。
「男選び、間違えちゃった〜」
私は目が覚める感覚に襲われた。しかし、目が覚めることがなかった。元の世界に戻る体力がなくなったらしい。
私の体力は果たして回復をするのだろうか。医師から受けた説明を思い出そうとしたが、頭が回らないから思い出せない。
私は虚な目をしてこちらを見つめる友人をずっと見ているしかなかった。
友人は言った。
「旦那のことも、娘のことも誰にも知られたくなかったのに」
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